2026年6月|九州大学 荒川豊教授 × エヌ・エイ・シー・ケア
連載
Guest
荒川 豊 教授
Prof. Yutaka Arakawa
九州大学大学院システム情報科学研究院 教授。IoTとAIを活用した行動認識・行動変容支援システムの研究者。文部科学大臣表彰受賞。大阪大学招聘教授、SDGsデジタル社会推進機構理事も兼任。

「AIが仕事を奪う」という議論が増える一方で、いち早くAIを自分の研究や日常業務に取り込んでいる人たちがいる。九州大学の荒川豊教授もその一人だ。第2回では、先生が実際に行っているAI活用の具体例を聞きながら、「AIを使いこなす人と使われる人の差はどこにあるのか」を探る。
ローデータを渡すだけで論文が回る──研究現場のAI革命
- 先生ご自身は、研究や日々の業務でAIをどのように活用されていますか?率直に教えてください。
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この1ヶ月だけでも、ローデータをもらって分析してジャーナル投稿まで、2〜3週間で自分で回せるようになりました。以前なら学生にやってもらっていた作業が、もうやらなくていい。論文の査読コメントへの返答や、プレゼンスライド、財団への報告書まで出てくるので、「これで終わりだな」という感覚があります。
具体的な例で言うと、1年半にわたって運営していた国際会議の引き継ぎ資料を翌週に求められたんです。もう作っていないし、1年半分を思い出すのは大変だと思っていたところ、ClaudeをGメールに接続して「このカンファレンスに関する全てのメールを洗い出して、どういうやり取りで議論が進んだか、引き継ぎ資料を作って」と頼んだら、一瞬でできました。「3回のメールやり取りでここが議論になっていて、この時期にこの作業をしていました」という形で。本当に一瞬でしたね。
学生50人分の成績表をOCRで処理してもらったこともあります。「いい感じでOCRしてまとめて」と頼んだら、PDFから表に変換して、確認用のプレビューまで付けてくれました。以前の学生が「OCRができなくて…」と1ヶ月かけていた作業が、こちらは一瞬で終わる。研究室の仕事の進め方が根本から変わっています。

移動中にアプリが完成する時代
- 研究業務以外でも、AIを活用されているのでしょうか?
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この1ヶ月でアプリを3つリリースしました。iPadアプリも出しましたし、移動中にアプリを作れるくらいのスピード感になっています。レビューしながらどんどん進められる。
Chrome拡張も自分で作っています。自分の作業で毎回ルーティン化しているものを見つけたら、全部Chrome拡張にしていく方針です。たとえばnoteの記事を書くとき、サムネイル画像を毎回Canvaで作っていたのが面倒になって、Chrome拡張にしました。タイトルを入れたら自動でサムネイルが生成される仕組みを自分で作って、選ぶだけにしてしまった。「ないなら作ろう」という発想で動いています。
また、SlackやGメールをAIに読み込ませることで、メール対応の効率も劇的に変わりました。自分の文章の言葉遣いや書き方のクセを覚えさせることもできていて、独特の言い回しが必要な大学の公式文書なども、AIが自分のスタイルに合わせて下書きしてくれるようになっています。
- ローデータを渡すだけで論文分析・投稿まで2〜3週間で回せる。以前は学生が数ヶ月かけていた作業が一瞬に
- GメールにAIを接続して1年半分の会議履歴から引き継ぎ資料を即座に作成
- 移動中にアプリ開発・1ヶ月で3本リリース。「ないなら作ろう」が実現できる時代に
- 自分のルーティン作業を見つけてChrome拡張化する──「自動化の習慣」こそがAI活用の本質
「使いこなす人」と「使われる人」の差はどこにあるか
- AIをうまく使いこなせる人と、そうでない人の差はどこにあると思いますか?
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一番大きいのは「自分でやってみる好奇心」だと思います。AIエージェントはまだ使いこなせていないという人も多いですが、私もClaude Codeの中で少し遊ばせる程度から始めました。乗り遅れたと感じながらも買って使い続けることで、だんだん自分の仕事との掛け合わせ方が見えてくる。
もう一つは「自分の仕事のどこが繰り返しか」を意識できるかどうかです。繰り返しの作業を見つけて自動化していく人は、AIの恩恵を指数関数的に受けられる。逆に「AIに何を頼めばいいかわからない」という人は、そもそも自分の仕事を構造化して見ていないことが多い。
企業でいうと、今まさに「生成AIを使いこなせない中間層は厳しい」という話が出てきています。AIを何となく使える人ではなく、AIエージェントを複数使いこなして一人でジャンプできる人が求められている。新人にお願いしてAIに入力させるという状態ではなく、自分でエージェントを回せる人でないと価値が出にくい時代になっています。
荒川先生の話からは、AIを「使いこなす人」に共通する3つの特徴が見えてくる。①好奇心を持って自分でまず触ること、②自分の仕事を構造的に見て繰り返しを見つけること、③「ないなら作る」という発想で動けること、だ。
Be Healthが提供する健康管理の文脈で言えば、こうしたAI活用の加速は、働く人の生産性と同時にストレスの構造も変えていく。「できる人はどんどん速くなり、ついていけない人は焦りを感じる」という職場の分極化が、メンタルヘルス面でのリスクになりうる。従業員一人ひとりのコンディションを継続的に把握し、変化の波に取り残されていないかを早期に察知する仕組みが、これからの企業にとってますます重要になるはずだ。
第3回では、「AIが苦手なこと・人間が勝てる領域」と「企業が今すべきこと」について、荒川先生の見立てを深掘りする。



