2026年6月|九州大学 荒川豊教授 × エヌ・エイ・シー・ケア
連載
Guest
荒川 豊 教授
Prof. Yutaka Arakawa
九州大学大学院システム情報科学研究院 教授。IoTとAIを活用した行動認識・行動変容支援システムの研究者。文部科学大臣表彰受賞。大阪大学招聘教授、SDGsデジタル社会推進機構理事も兼任。

生成AIが猛スピードで知的労働に進出する今、「人間の仕事はなくなる」という不安の声は絶えない。しかし荒川先生は、AIが到達できない領域は確かに存在すると言う。最終回では「AIが苦手なこと」「ロボットの限界」「人間が発揮すべき価値」、そして企業・人事担当者へのメッセージを聞いた。
AIが知らない「文脈」──経験の積み上げが人間の武器
- AIの進化が著しい中で、「人間にしかできないこと」は今後どう変化していくと思われますか?
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生成AIの文脈でいうと、AIは「文脈」を知らないんです。データを渡して分析させることはできますが、「なぜこの研究をしたいのか」「現場でどう感じているのか」は、こちらが伝えてあげないとAIには分からない。人間は同じ内容でも、会う相手によって話し方を変えますよね。なぜ変えなければいけないかも含めて理解しながら動けるのは、経験が積み上がっているからです。そこはまだ人間が勝てる部分です。
AIにはメモリ機能があるので、私のことはどんどん学習してきますが、私が話す相手のことまではまだ理解できていないんです。たとえば講演会で、聴衆のうなずきや反応を見ながらトーンを変えてしゃべるというのを人間はやっています。反応が良いところは話を膨らませ、薄いところはさっと切り上げる。AIはプロンプトに入れられたことを返すだけなので、こういったリアルタイムの場の読み取りはまだ苦手です。
最近ようやく「全二重会話」という技術が出てきて、AIが話の途中でこちらが話しかけると止まるようになってきました。話しながら聞いて、次のことを考えるというのはできるようになってきたので、恐ろしいですが(笑)。ただ、表情を見たり場の空気を感じたりするマルチモーダルな対応はまだできていないので、研究室でその先を先取りして取り組んでいます。

フィジカルAIの限界──ロボットが来られない場所
- ロボットやフィジカルAIの進化についてはどうお考えですか?
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ロボットが走ったり座って物を詰めたりはできますが、脚立に登って作業するといったことはまったく無理です。ロボットはモーターとバッテリーの物理的な制約をまだ克服できていません。リチウムイオンよりエネルギー密度の高い電池がなく、それ以上のトルクが出るモーターもない。フィジカルな現場への本格参入はロボットにはまだ難しく、現場仕事・フィジカルな仕事の価値はむしろ高まっていくでしょう。
- AIは「文脈」を知らない。なぜそれをするのか・相手がどんな人かは、経験を持つ人間が伝えてあげる必要がある
- 講演や対話における「場の読み取り・反応へのリアルタイム対応」はAIにはまだ難しい
- フィジカル労働(インフラ・設備工事など)はロボットが代替不可能。米国では電気工事士などブルーカラーの給与が大きく上昇し、CS職と並ぶ水準に
- ロボットはバッテリー・モーターの物理的限界により、現場作業への本格参入はまだ先
企業・人事担当者へ──AI時代のウェルビーイングをどう守るか
- AI化が進む職場で、従業員の健康やウェルビーイングを守るために、企業や人事担当者はどう動くべきだと思いますか?
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まず正直に言うと、この変化は急激すぎます。学生の中にも「就職をやめて博士課程に進もうか」という子が出てきているほどで、3年後・5年後の仕事の形が読めない不安は、企業の中でも同様に広がっていると思います。
そういう環境の中で大切なのは、従業員が「自分は変化に取り残されていないか」という不安を一人で抱えないようにすることだと思います。AIツールの習熟度や、業務の変化への適応度を把握して、早めにサポートにつなぐ仕組みが必要です。私の研究でも、コンディションの変化はデータに先に現れる場合が多い。日常的なデータで従業員の状態を継続的に見ていることが、早期介入の大前提になります。
もう一つは、「AIを使いこなしている人間が偉い」という一元的な評価軸を作らないことです。フィジカルな仕事、文脈を読む仕事、関係性を育てる仕事──これらはAIが代替できない領域で、これからむしろ価値が高まる。多様な強みを持つ人材が活躍できる職場設計を、今から意識してほしいと思います。

3回にわたる荒川先生との対談を通じて見えてきたのは、AIの進化は「全員の仕事を奪う」のではなく、「仕事の意味と価値を再定義する」という変化だということだ。知識処理・繰り返し作業・定型的な判断はAIへ。フィジカルな現場、文脈の読み取り、関係性の構築は人間へ。その移行期に、従業員一人ひとりのコンディションを継続的に把握し、変化への適応を支えていくことが、これからの企業に求められる健康経営の姿ではないだろうか。
Be Healthは、そのような「変化の時代の健康管理」を支えるクラウドシステムとして、人事・産業保健スタッフの皆さんのそばにあり続けます。



