AIがホワイトカラーの仕事を変える時代──働く人の健康とウェルビーイングはどうなるか

対談・特別企画【全3回】第1回

Guest

荒川 豊 教授

Prof. Yutaka Arakawa

九州大学大学院システム情報科学研究院 教授。IoTとAIを活用した行動認識・行動変容支援システムの研究者。ウェアラブルデバイスや機械学習を用いた人間行動の認識から、心理学・行動経済学と融合したデジタルウェルビーイングの研究まで幅広く手がける。文部科学大臣表彰受賞。大阪大学招聘教授、SDGsデジタル社会推進機構理事も兼任。

荒川豊教授へのインタビュー風景
熱を込めて語る荒川教授。「この3ヶ月で本当に急激に変わった」と実感を話す

生成AIの進化が加速するなか、「ホワイトカラーの仕事がなくなる」という議論が各所で聞かれるようになった。AIと人間行動の研究を続けてきた九州大学の荒川豊教授は、この変化をどう見ているのか。また、AI時代に働く人の健康やウェルビーイングはどうなるのか。エヌ・エイ・シー・ケアが率直に伺った。

生成AIの進化について、率直な見立てを

研究者として、昨今の生成AIの進化をどのようにご覧になっていますか?「ホワイトカラーの仕事がなくなる」という議論について、率直にどう思われますか?

生成AIの進化スピードは一定ではなく、この数ヶ月で本当に急激に変わりました。去年の6月頃まではまだ「便利なツール」として使う程度でしたが、昨年11月頃から「AIが人間の知能に近い」と感じる場面がめちゃくちゃ増えてきて、これは使わないとダメだという感覚になっています。

企業の方々と話していても、最近は「生成AIを使いこなせない中間層は厳しい」という声が出てきています。AIを何となく使える人がいるというより、AIエージェントを複数使いこなせる人が求められていて、新人にお願いしてAIに入力させるという状態になっている。これがもうエージェントになってくると、一人でどんどんジャンプできる人でないと価値がないという時代になってきています。

アメリカでは今、コンピュータサイエンスの就職事情がかなり厳しくなっていて、月200ドル程度のプラン(Claude MaxなどのAIエージェント)を使えば、一人で複数人分の業務をこなせるようになります。そのため「新人を雇うより全社員にAIを導入する方がいい」という経営判断も出てきています。生成AIを使いこなせないデータサイエンティストは、次第に立場が難しくなると感じていて、正直、難しい時代が来たなというのが現状ですね。

荒川先生のポイント
  • 生成AIの進化スピードは加速しており、特に2024年後半から質的な変化が起きている
  • 生成AIを使いこなせない中間層は厳しい時代へ──AIを使いこなせる人材と、そうでない人材の二極化が進む
  • 月200ドル程度のAI活用で一人が複数人分の業務をこなせる時代。採用より全社員へのAI導入の方が合理的という判断も
  • 生成AIを使いこなせない知識労働職は代替されつつある一方、AIを使いこなせる人材であれば職種を問わず生き残れる

「人間にしかできないこと」はどこにあるか

IoT・AIによる行動認識の研究をされてきた立場から、「人間にしかできないこと」はどこにあると思いますか?

興味深いことに、アメリカでは今、配管工や電気設備工事といったブルーカラーの給与が以前の3倍ほどに上がり、コンピュータサイエンス職と並ぶ水準に達しているんです(いわゆる「ブルーカラー・ビリオネア」と呼ばれる現象です)。インフラって壊れても電線が切れても、エアコンをつけようとしても、人間が現場で手を動かさないといけない。AIはまだそこまで行けないし、ロボットも走ったり物を詰めたりはできますが、脚立に登って作業するといったことはまったくできません。逆に言うと、「人間がフィジカルに動く仕事」はむしろ価値が高まっていく。

私の研究室でも最近、スマートフォンやカメラを使って聴衆のうなずきや反応を見ながらプレゼンのトーンを変えるシステムを研究しています。同じことを言っても反応が違えば話の広げ方を変えるというのを人間はやっていますが、AIはプロンプトに入れた通りに返すだけなので、そういった文脈適応はまだ苦手なんですよね。

荒川先生のポイント
  • フィジカル労働(インフラ・設備工事など)はAI・ロボットが代替できず、むしろ価値が高まっている
  • AIは「文脈」を理解できない。なぜそれをするのか、相手がどんな人かは人間が伝えてあげる必要がある
  • 経験に基づいた文脈適応・関係構築は、まだ人間の強み。AIのメモリ機能が進化しても、相手側の情報はAIには把握しきれない
  • 「AIを使いこなす人間」と「AIに使われる人間」の差は、スキルではなく文脈理解力と好奇心にある

AIと共に働く時代に、企業が考えるべきこと

荒川先生は対談の中で、ご自身の研究室でも生成AIの活用が劇的に進んでいると語った。1年半分の会議メールをAIに読み込ませて引き継ぎ資料を一瞬で作成したり、学生50人分の成績表をOCR+AIで一瞬で集計したりと、そのスピード感は圧倒的だ。

一方で先生は、「この3〜4ヶ月で急激にホワイトカラー的な仕事はどうなるかという不安が強まっている。生成AIを使いこなせないコンサルタントやデータサイエンティストは相当に厳しいのではないか、という感覚が出てきている」とも話す。急激すぎる変化に「就職をやめて博士課程に進もうか」という学生まで出てきているという。

Be Healthが提供する従業員健康管理システムの観点から言えば、AI化によるストレス・不安・過集中といったメンタルヘルスリスクが高まる中で、従業員一人ひとりのコンディションを継続的にモニタリングし、早期にサポートにつなぐ仕組みがますます重要になっていくはずだ。

荒川先生の研究から見えてくるのは、「AIに仕事を奪われる恐怖」よりも「AIを使いこなしながら人間らしい価値を発揮できる環境づくり」こそが、これからの企業の競争力と従業員のウェルビーイングの両方を支えるという示唆だ。

第2回では、荒川先生がご自身で実践しているAI活用の具体例を通じて、「AIを使いこなす人と使われる人の差はどこにあるのか」を掘り下げる。

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